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「つき貫ける合気」研究会レポート

令和6年7月21日開催


 令和6年7月21日、東京都立川市近郊において合気道S.A.主催による“つき貫ける合気”研究会が開催された。

“つき貫ける合気”とは櫻井代表師範の造語であり「相手の力の壁にある繊細な隙間から無理なく力を相手の体軸につき貫き技を掛ける合気技」という意味を持つものである。

 

 今回の研究技は“上段腕絡み・正面入り身投げ・三ヵ条抑え”である。またテーマとしては“力の起こりをシッカリと意識する・下半身への崩し”となる。この2つのテーマについては櫻井代表師範が常々仰っておられる“相手の反抗する理由を無くす・下半身を崩してしまえば如何なる抵抗も出来なくなる”という事へと繋がるものである。

 それでは上段腕絡みからの研究開始である。まずは正面打ちから入る上段腕絡みとなる。オーソドックスな技ではあるが型稽古としてだけではなく実際に相手を崩してとなると難しいポイントも存在する。相手の正面打ちを外捌きして回転斬り落とし、その後にヒラいて上段へと入るのであるが、一番の問題点はその際にどうしても相手の身体を起こしてしまい、上段の形になった時には相手が安定した強い体勢となってしまう事である。そうなってしまうと相手が抵抗した場合には力を通す事が困難となってしまいどうしようもなくなってしまうのだ。これは多くの稽古生が頭を悩ませる問題であるが、代表師範のアドバイスは簡潔である。すなわち“相手の崩れを持続させる・体勢を起こさせない・横に振ったり捻ったりと逃げずに相手の自信を持っている強い所へ敢えて力を通す”である。

 実際に代表師範の技を受けてみると、最初の崩れが持続して体勢を立て直す事も出来ずに簡単に投げられてしまう。何度受けても、また抵抗しようと頑張ってみても同様である。参加者達は代表師範から個々にアドバイスをいただき研究を重ねる訳であるが、やはり一朝一夕に出来るようになる事は無く、崩し方・体勢が起きないライン等々を考慮しながらそれぞれの研究を深めて行くのであった。一見有効に見える“横に振る・捻る”という動きは初見では通用する場合もあるが、経験を重ねた者や関節・筋肉が柔軟な者には意味を成さず、これらは型稽古のみならず勿論組手や試合で通用しないのは言わずもがなである。また相手の自信を持っている強い所へ力を通すというのは、相手が来るのが分かっていても反応出来ず何度も力を通す事が可能になり、S.A.では現在そういう方向を目指して代表師範の指導の元、稽古を重ねているのである。非常に地味で当たり前の基本的な事を一つ一つ丁寧に積み重ねて行く事により、櫻井代表師範のような相手の抵抗・反抗をものともしない“つき貫ける合気道技”へと至る道へ繋がる事になるのである。

 次の研究技は正面入り身投げである。基本技としては相手の顎を上げさせる事により下半身を崩し投げる技であるが、この研究会では更に“相手の顎を上げる事無く接触した所から真下へ力を通し下半身を崩して投げる技”についても研究した。まずは顔面打ちを外捌きして回転斬り落としから入る技から研究開始である。やはりこの技でも相手の顎を上げさせる事無く接触した所から下半身へ力を通すというのは非常に高度な技法であり、どうしても接触した部分に力を入れてしまい、それにより力や力の方向を相手に読まれ容易に抵抗を受けてしまう事となる。代表師範曰く“接触点を柔らかくして固定・力の発生源を意識して真下へ力を通す”事が重要なポイントであるという。これも実際に技を受けると本当に不思議な感覚なのであるが、何故か代表師範の技には抵抗する事が出来ず自然にふわりと自分の腰が落ちて行く(足が踏ん張れない・折れてしまう)のである。

 

 代表師範から具体的なアドバイスをいただき参加者それぞれが頭を悩ませつつ研究を進めるのであるが、こちらもそう簡単に上手くは行かない。様々な試行錯誤を繰り返し、また更に応用として“相手を斬り落としてそのまま丸く返して入る技・その上級技として前から歩いて来る相手にいきなり入る技”と高度な研究へと進め、またこれらの技についても顎を上げさせる事無く接触した瞬間に力を通して下半身を崩すといった所にまで深めて行ったのである。特に前から歩いて来る状態で代表師範に触れられたと思った瞬間にいきなり腰や膝を落とされてしまい全く力が当たる事が無い(すなわち抵抗出来ない)というのは、正直技を受けた本人でさえも理解に苦しむような経験であり、代表師範の技の奥深さに驚きと感動を覚える。日々の精進の先にはこのような奥深い世界が現実に存在するという目標・指針を得る事が出来、更に稽古に励まねばという思いを強くしたのであった。

 最後に三ヵ条についての研究である。最近のS.A.本部においては技がドンドンと進化・変化していっているのであるが、三ヵ条は特に変化の大きいものである。まずは他流派のように三ヵ条を捻って極めるという事が無くなった点である。“捻る三ヵ条”は痛みもあり初見では効く技ではあるが所詮それは小手先の技であり、代表師範は小手先の技ではなく相手の体感を崩す技へと進化させている。主な理由としては相手の体幹を崩してしまえば反抗も出来なくなり後は自由自在であるし、また根本的な問題として捻って痛みを与える技では型稽古ならともかく、前述したように経験を重ねた者や関節・筋肉の柔らかい者には容易に抵抗・反撃を許してしまうという現実が存在するからである。

 さて前置きが長くなってしまったが、S.A.の三ヵ条は“握らない・捻らない・添えるだけ”である。それで崩す事が出来るのか不思議に思われるかもしれないが、実際に技を受けてみると捻られる三ヵ条は容易に抵抗が出来、そこからの斬り落とし等にも容易に対応出来るのであるが…添えられただけの場合、力の方向が読めず驚くほど大きく崩されてしまうのだ。勿論、その為には“添える”だけでは体現は不可能で、それに付随した精密な身体運用が不可欠となるのであるが、それらが今回の研究内容である。

 代表師範の解説の後、それぞれ研究を始めるが、添えただけの場合、相手の手だけが動くだけで肝心の相手の体幹にまで力が通らず崩す事が出来ない。皆が一様に頭を悩ませる中、その点につき代表師範は“三ヵ条に取った時にギアがカチッと噛み合うかどうか・噛み合えば初動でいきなり腰へと効かせる事が可能”との事であり、そうでなければ技としては成立しないとの事である。また代表師範は三ヵ条に取った時に“相手を取る”との表現もされた。ギアの噛み合わせについては、実際に技を受ける事により具体的な感覚については得る事が出来たのであるが、それを自分で体現しようとすると本当に難しく皆がこれまた頭を悩ませる事となるのであった。

 

 このように今回も非常に中身の濃い研究会であったが、それ故に時間の経つのもあっという間であった。勿論、研究会に参加したからといって直ちに出来なかったものが出来るようになったりはしない。そのような浅い技ではないのは参加者全員が理解しており、こういった研究会・合宿等々は今後の自己の稽古に役立てる課題・目指す方向性といったものを明確にするという重要な意味合いを持つものである。


 最近、合気道S.A.本部では櫻井代表師範の技をYouTubeで公開を始めた。これは各支部・門下生の方々へ代表師範の最新の進化した技を公開するのが目的である。しかし我々自身、力不足を痛感しているのであるが、代表師範の技は映像ではその本質・凄さといったものが伝わり難い。自分自身で全力で抵抗している状態で、その抵抗を無意味にされてしまうという不思議な感覚は実際に体験してみないと、文章・映像だけでは理解は難しいであろうと考えてしまう。

 今後もS.A.本部ではYouTubeチャンネルで技を定期的に公開予定であるが、それらを見て“実際にそんな事が可能なのか・本当に抵抗出来ないのか”等々の様々な疑問・興味を持たれた方々が居られたら、武道・流派問わず、こちらも定期的に開催されているS.A.の研究会・合宿等に是非参加されて実際に代表師範の技を受けていただきたい。きっとまた新たな世界が広がる事であろう。

<合気道S.A. 広報部>