令和6年3月3日開催
令和6年3月3日、東京都立川市近郊において合気道S.A.主催による“オープントーナメント実戦合気道選手権大会”が開催された。
今回も他流派・他武道ベースの参加者の方々が多く、多様な顔ぶれとなり中々興味深い内容の大会となった。
左 櫻井文夫代表師範 右 平畠幹彦選手
まず試合前に櫻井代表師範より“どうして合気道に組手や試合を導入したのか・開催意義・目指す方法性・求めるもの”等についての説明があった。そもそも型稽古しか無かった合気道に試合・組手を導入したのは代表師範が“現状の打破・武道としての本来の意義・原点回帰”という目的を持ち、弟子達にしか掛からない技・受けから掛かりにいく技に未来があるのか??という現状への疑問からだったようである。
塩田剛三先生という達人が演武という華麗な動きや摩訶不思議に見える技で合気道の知名度・底上げを可能としたという事実には目を見張るものがあったと考えるが、一方で演武的なものが合気道の全てであると思われてしまうとまたそれは少し違うのではないかと考えてしまうのである。
勿論、あの華麗な動きや美しい所作を目標として合気道を志している方も多々存在するであろうし、そちらについて当然否定をするものではない。そういった方々は演武派の流派・団体へ、逆に本気で技を掛け合い実際に武道として使える技を目指す方々には合気道S.A.という“合気道の実践”を標榜する団体が存在するという事だけで、互いに否定し合うものではなく目指す方向性の違いというだけであると考えている。残念ながら我々が少数派であるというのは現実として認識しているが、昨今の動画等の世界で見られる名人・達人の方々の技には疑問を抱く事が多く、稀に触れずに相手を投げ飛ばしたり弟子達を派手に投げ飛ばしたりしている等々を見かけるのであるが現実問題そんな事が可能なのか??と感じざるを得ない。勿論、私自身の知識・勉強不足で存じ上げないだけであり現実にそういった名人・達人が存在している可能性は一切否定しない。是非ともそういった名人・達人・そのお弟子さん方には合気道S.A.の試合に参加していただきその技を私達も勉強させていただきたいと考えているのであるが、中々現実は厳しくまだ実現はしていないのである。
合気道S.A.の技は櫻井代表師範が長年の試合・組手の経験からのフィードバックにより構築された理合に基づく技によって構成されている。そういうと派手に投げ飛ばしたり関節を捻り倒して投げ飛ばしたりという力強く強引な技を想像される方が多いであろうと考えるが、実際のS.A.の技はほぼ真逆??と言って良いような“見た目”の地味な??技が多い。
力に頼ったり関節を傷めて投げ飛ばす技は自分より力・体格が劣る者・技に慣れていない者には何度かは掛ける事が可能であろう。しかしそういった技は自分より力や体格等が格上の者達へは掛ける事は非常に困難になってしまうのだ。そういった現実を踏まえ、櫻井代表師範は長年の経験に基づき独自の技へと進化させて行ったのである。
実際に代表師範の技を受けてみるとどんなに抵抗していたとしても本当に“あっさり”と力を通されて倒されてしまう。体格・力の強さ等々といった諸条件に関係無く!である。側から見ていると失礼ながら多少の忖度があるのでは??と弟子の目から見てもそう感じるくらい摩訶不思議なものなのだ。派手に投げ飛ばされる事も力強く投げ飛ばされる訳でも無いどころか、受けは笑顔が出てしまう程身体に余計な力が入らずに“ふわっ”と倒されてしまう。こればかりは実際に代表師範の技を受ける事が出来なければいくら説明を受けても動画等を見ても理解する事は出来ないであろうと感じてしまう。
この摩訶不思議に見える技は試合や組手の経験があったからこそ辿り着いた(代表師範曰くまだ完成ではない)技であり型稽古だけでは到達出来なかったとは代表師範の言葉である。力で何とかしようとしたり強引に捻ったりしても一度目は掛かったとしても、二度目以降は相手に対応されてしまい容易に抵抗されてしまう。それに対応する為には“相手に自身の力の発生源を悟らせず(相手の抵抗理由を無くす)尚且つ相手の自信を持っている一番強い所へ力を通す”事により何度も技を掛ける事が可能になるというのだ。当然その為の身体運用は非常に繊細なものであり一朝一夕に身につくようなものでは決して無い。代表師範曰く“本当に我慢強く薄皮を一枚一枚積み重ねて行くようなものだ”との遥か遠い世界の事ではあるが…現実的に日々の稽古の積み重ねの上にそのような世界が存在すると見せていただけるだけでも我々のモチベーションは全然違うものになるのは当然である。
しかし実際に試合・組手になるとお互いに技を知り尽くした者同士、また負けたくないとの気持ちも出て来てしまい、力比べの様相を呈し膠着状態になったり小手先の攻防になってしまったりと思うようにはならず、現実は厳しいのもまた事実である。そうは言っても試合参加者のみならず合気道S.A.の門下生であるならば諦めずに目指す目標であろう。
当然ながら櫻井代表師範は御自身の現状にさえまだ満足しておらず、更なる進化を、いやそれどころかここに来てまた更に進化スピードが上がって来ており本当に我々の目標の高さ・遠さを痛感されられてしまう次第である。
山本鏡明選手(左) 平畠幹彦選手(右)
さて前置きが長くなってしまったが今回のオープントーナメントである。
軽中量級・無差別級に分かれ鎬を削り、それぞれの優勝者同士で最終的な総合優勝が決まる合気道という“小よく大を制す・柔よく剛を制す”という理念の体現を目標としたものであるが果たして結果はどうなったであろうか。
軽中量級部門の決勝は力強い組手と小柄ながら身体の強さで定評のある山本鏡明選手(合気道S.A.八王子)と様々な知識と豊富な経験に基づく多種多様な技を誇る東山真教選手(合気道S.A.品川)との対戦、無差別級決勝は部門優勝・総合優勝とここ最近メキメキと頭角を表して来た勢いに乗る平畠幹彦選手(合気道S.A.大宮)と身体能力の高さと変幻自在な業師の異名を持つ木村圭吾選手(合気道S.A.品川)との対戦となった。
軽中量級では安定した力強い組手で東山選手を押し切り山本選手が、無差別級では業師・木村選手を勢いに乗る平畠選手がその勢いのまま押し切る形となり、総合優勝の争いは昨年同様お互いに近いタイプの両者の争いとなった。お互い何度も戦った経験のある同士であり、体重差はありつつも両者共身体能力の高さもある事から中々決め手を欠くも一瞬の隙をつき平畠選手が側面入り身投げでポイントを獲り、そのまま見事に総合優勝を飾る事となった。
これで昨年総合優勝の山本選手に一矢報い安定した強さを証明した平畠選手、年齢も若くまだまだこれからが楽しみな選手である。
平畠幹彦選手(上) 山本鏡明選手(下)
このようにS.A.のオープントーナメントとは常日頃の稽古の成果を試す実験場であり、お互いの技の試し合いである。以前、ある流派の最高師範の方が“試合なんかやって勝った負けたで一喜一憂してる場合ではない。もっと原理原則を深めるべきだ。”と仰っていたが、ある意味では正論だとは思うが、私自身はこういった本気での技の掛け合いは合気道修行の一環として必要不可欠な事であると考えているし、実際型稽古だけでは到達出来ないもの(一部の天才は除く)があるのは純然たる事実であると考える。
何事も批判するのは簡単であるが、そういった方々にも是非こういった機会に実際に参加していただき技を試されてみては如何であろうかと強く感じてしまう。それ以外にも、自分の技が通用するがどうか疑問を持たれている方々や試してみたいと思われている方々にも合気道S.A.は広く門戸を開いている。是非とも積極的に参加していただきたいと考える。
また櫻井代表師範の技に興味をお持ちの方々には合気道S.A.は定期的に講習会・合宿等を開催しているので詳細はホームページ等で確認をしていただけると幸いである。
それらは櫻井代表師範の技を実際に体験出来る数少ない機会であり、また目から鱗の貴重な体験をする事が出来るものであると確信をしている。
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