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春季実戦合気道 広域指導者認定合宿レポート

令和5年5月3~4日実施


令和5年5月3日・4日の2日間、東京都立川市近郊において合気道SA主催による“実戦合気道広域指導資格認定合宿”が開催された。

 

今回の合宿におけるテーマは“力の発生源・力の流れ・身体のラインを見る目を養う!”である。初日は“構え・基本動作・体捌き・崩す打撃・基本技(三ヶ条まで)”・2日目は“構え・基本動作・体捌きの復習と確認・基本技(修正・確認と残りの技)”という流れとなった。合宿においては、少人数のグループに分かれお互いの動きを客観的な目で確認し合うと同時に自分自身の見る目も養うという目的意識を持つ!という稽古に重点を置かれる。これにより自分自身では中々気がつき難い癖や思い込みを修正すると同時に、指導者・修行者として必要とされる客観的に見る目を養うのである。更に今回はそれにプラスして合宿のテーマである“力の発生源・力の流れ・身体のラインを見る目を養う!”といった点も加味されたものとなったのである。

櫻井代表師範は“つき貫ける合気”研究会等でよく“相手の身体の強いラインへ力を通す事が必要である”旨の説明をなさる事が多いが、この辺りの話へと繋がる事になるのだ。当然、漠然とした通常の稽古の中でそのような見る目を養う事は非常に困難であると考えるが(一部の天才的な方達は除く)、身体を動かすのに”何処から力を発生させているのか・また力の流れはどうか・その時の身体のラインというものはどうなっているのか??”という事を理解する事は合気道技の高みを目指す上で必要不可欠であるとあると代表師範はお考えになり、今回、そのような見る目を養う稽古・訓練を導入されたそうである。確かにそういう意識を持ち、そういう目で見よう・理解しようとする場合とそうでない場合では天と地程の差が生じるであろう。そういう意識を持って見ようとしたところで直ちに見えて来るかというと決してそんな事はないであろうが、自分自身にシッカリとした意識を持ち、見ようとする努力・訓練を重ねる事で可能性の扉が開くのである。とは言え、初めて説明を伺った時にはまるで雲を掴むような話であり、何処に注意を払いどのような見方をすれば良いのか酷く困惑したものである。

しかし構えや基本動作の確認作業の最中の事であったが、代表師範から一言、“一見、ガッチリ強そうに見えてもここのラインに沿って崩せばアッサリと崩せる!”と実際に私の目から見るとシッカリとした安定した強そうな姿勢にも関わらず、代表師範の手にかかるといとも簡単に倒されてしまうという事があった。私自身も構えや基本動作の時にシッカリした(と自分では思っている)形になっている時に、いとも簡単に前にも後ろにも自由自在に倒されてしまうという摩訶不思議な体験をした。不安定な方向への崩しではなくシッカリ安定している前や後ろへの崩しであるから余計に驚きである。参加者同士でお互いに色々と試してみるが当然強い所へ力が当たってしまいビクともしない。何度やってみても幾ら力を入れてみても同様である。しかし、代表師範には“ライン”が見えており、そのラインに従って崩せば力も必要とせず簡単に崩せる!との事であるが…。この辺りについても代表師範より詳しく御指導があったのであるが、参加者全員あれやこれやと本当に非常に頭を悩ませる事となったのである。

ちなみに代表師範によると“弱いラインを狙うのではなく相手が自信を持ってる強いラインへ力を通す事が重要”という。そうする事により何度でも技が掛かるし抵抗も出来ないそうだ。本当に摩訶不思議な事ではあるが、これは決して神秘的なものでも奇を衒ったものでもなく、代表師範の理合に基づいて構成された技なのだという。これらは理合と地力がお互いに合わさって(通常、中々理合に対して地力が追いつかない)初めて実現されるものであるが、当然合宿で習ったからといって直ちに出来るようになるような簡単なものではない。シッカリとした稽古への取り組みと、そういった意識を持った上で少しずつ少しずつ前進していくものであろう。そのラインの話に関連して今回、私自身、立ち姿について代表師範より修正を受けた。代表師範の“目”から見ると立ち姿が弱い!との事で修正していただいたのであるが、自分自身では正直違いがよく分からないという印象であった。しかし先輩から打撃による衝撃を受けると両者の違いが覿面に現れた。今までの立ち姿では衝撃を受けると同時に身体が後方へ持って行かれてしまったのであるが、修正後では全く安定して衝撃を受け止められ、先輩によると打った手応えが全然違い逆に打った手の方にダメージが来たそうである。正に目から鱗であった。このように中々簡単に目には見えず漠然とした感のある“ライン”ではあるが、実際に代表師範の“ラインに沿った崩し”を受けたり、立ち姿の修正といった具体的な現実を示してくださったお陰でシッカリとした道筋・目標が出来、少しでも代表師範の領域へ近づきたいと更に稽古へのモチベーションも上がったのであった。

続いて体捌きである。体捌きについても今回の合宿では今までの“相手に誘いを掛けその誘いに乗って来た所を捌く”から“相手の中心のラインを狙って入る・相手の身体の中をすり抜けるように体捌きを行う”体捌きへと変更が行われた。今までの相手を誘う体捌きでは受け側は取りに行って“当たる・当てられる”と思った瞬間にスルッと相手が目の前から消え去り“おっとっと”状態にされてしまうのであるが、変更後の体捌きでは言葉では何とも表現し難い感じで本当に“身体の中を通り抜けられるような印象”で捌かれてしまい無力化されてしまうのである。絶対的なスピードとかそういう次元のものとは無縁の動きであり私では言葉に出来ない。実際に体験してみると両者の違いはハッキリと感じられ、それぞれに怖さがあるのは事実であるが…。こちらもまたグループに分かれ、お互いに掛け・受けを交代しながらも漠然と単なる回数をこなすといったものではなく、より精密により深く体捌きについての研究を行なったのであった。

続いては打撃技である。最近、代表師範はS.A.における打撃技についても積極的に変更を行なっている。一番大きな変更点といえば“ダメージを与える打撃技”から”崩す打撃技”への変更・変化であろう。代表師範ご自身でもまだまだ研究中との事でありご自身の納得が行くレベルには達していない…という事であるが、実際に受けてみると後ろは衝撃が通る通常の打撃技ではなく“そんなに痛みを感じさせられる訳ではないにも関わらず膝を折られる(下半身を崩される)”という不思議な打撃技なのである。これは蹴りでも同様である。下段・中段・前蹴りで膝を折られる(下半身を崩される)打撃技…こちらも私には言葉で説明・言語化する事は難しい。是非とも講習会等に参加されて実際に受けてみる事をお勧めする。それ程“???”なのである。また“崩す打撃”への変更に伴い、拳での”正面突き・顔面突き・フック”は掌底での“正面打ち・顔面打ち・回したたき”へと変更となる。審査技において突きは残すが通常の稽古・技においては掌底での“打ち”へと変更されるとの事である。

 

最後に技に入る。通常、技については合宿では基本技を順にこなしていく流れなのであるが、今回全員合宿参加経験があり尚且つ全員黒帯という事で通常とは異なり、基本技一本に、もう一本は掛けが自分から攻め込み手を引っ掛けて崩しながら技に入るパターンを稽古する事となった。自分から攻め込んで技に入るというのは代表師範が最近特に好まれる技である。技についても今回のテーマである“力の発生源・力の流れ・身体のラインを見る目を養う!”という事が重要であり、技においてこそ更に重要度が上がるテーマでもある。

S.A.における全ての技に共通して重要となるのがやはり下半身を崩すという事である。しかし特に手を引っ掛けるパターンの技や組手の構えから崩して行く技では、腕を強く取り過ぎて相手の抵抗を生んだり腕を引っ張ったりして上手く崩す事が難しい。ここにおいても自分が何処から力を発生させているのかという点や、相手のラインを読み取り崩すといった事が必要になって来る。この辺りにおいてもまだまだシッカリとした“意味のある”稽古を積み重ねて行かなければならないと再認識させられたものである。

またS.A.の審査技としては残すが通常の稽古においては技自体が変更・変化しているものも出て来ている。代表師範の技が進化するのに合わせて、基本技もドンドンと進化・改善されていっているからである。正しくこの辺りは“進化する合気道”たる合気道S.A.の面目躍如といった所ではあるが、それ故に各支部の方々は積極的に講習会・合宿等に参加され技のアップデートを行なっていかないと色々と驚く事になるかもしれないと感じられた。それ程、ここ最近の代表師範の技の進化というものは凄まじいのである。

 

今回の合宿においてはテーマとなる“力の発生源・力の流れ・身体のラインを見る目を養う!”との目的の元にかなり濃密な2日間の稽古が行われた。本当にあっという間に時間が過ぎたという印象である。繰り返しになるが、合気道というものはこの2日間シッカリと習ったからといって直ちに出来るようになるような質のものではないのは勿論であり、代表師範がよく仰るように“薄皮を1枚1枚積み重ねて行くような綿密で繊細な作業の積み重ね”である。修行の道は奥深く、暗中模索の苦しい状態になってしまう事も多々ある事であろう。

しかし我々合気道S.A.には櫻井 代表師範という様々な理合を体現されておられる、具体的で現実のお手本が存在するのもまた事実である。合気道S.A.の門下生のみならず、他流派・他武道の方々もこういった講習会・合宿等に積極的に参加され、それぞれの技のアップデート・新たな刺激を受けてみては如何だろう。

代表師範の技の本質は動画や写真等では到底窺い知れるものではない。ほんの少し勇気を出して一度実際に代表師範の様々な技を受けてみる事をお勧めする。そうする事により、新たな領域・合気道技の深淵に踏み込む事が可能になるかもしれないのではないかと考える次第である。

<合気道S.A. 広報部>