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「つき貫ける合気」研究会レポート

2024年4月7日開催


 令和6年4月7日(日)つき貫ける合気研究会が東京近郊で開催された。今回のつき貫ける合気研究会では、「つき貫ける小手返し」「つき貫ける側面入身投げ」「つき貫ける四ヶ条抑え」の三種類の技がテーマとなった。

 

 どうしても小手返しという技は、その名の通り相手の手首を相手側に捻るという形になりやすい。技がかかって相手が倒れる時にはその形になっているのが正しいのだが、そこに至るまでのプロセスに相手の手首を掴む、相手の手首を捻るという動きが入ると技として成立しにくい。他流派や柔術などには相手の手の甲に親指を掛けるという形で、手首から肘、肩、そして肩甲骨を通して腰…と順番に身体の中に力を通していって全身を固めてしまうという動きが多い。しかし慣れてくるとそう簡単には手の甲に親指を掛けて良い方向に返したところで、そう簡単には全身をロックすることが出来なくなる。それは相手が慣れてきて、掛ける側の力の方向や出所を察知してしまうからというのが大きい。もちろん、それがわかってもどうにもならない程の力で技にもっていくというのも技の一種ではある。

 合気道S.A.では相手の手首関節をとらず、手首周辺に手を添えるが手首そのものではなく、そこに手は触れているものの実際には相手が「立っている際に無意識化でバランスを取っている箇所」にアプローチする事を目指す。相手は一度技を掛けられるとそれに対して対抗する、抵抗する為の体勢や力を出そうとする。それに対して毎回違う動きや異なる思考で技を掛けようとすると、どうしても無理が生じてしまう。「立っている際に無意識化でバランスを取っている箇所」というものは、要するに自分全身をコントロールする要所であるから、誰もが自信を持ってそこに頼っている。そこを直接破壊する事が出来ればバランスを失い、立っている事が出来なくなるという理屈である。しかし全員が自信を持って使っている要所ということは、直接的な力でアプローチしても跳ね返されてしまう強さを持っているため、そう簡単に破壊などはとてもできない。

 櫻井師範によればその一番強固で自身のある箇所に対して、いかに自分の力を察知させず浸透させるかというところで「つき貫ける合気」という名称で始めたが、最近の研究では「入り込んで内部から破壊する」方が有効かもしれないという仮説と実証を行っているという。

 側面入り身投げは相手の側面に対して自分の側面を使って接触し、相手を後方に倒す技である。この技は接触点が多くなる為、相手からすると処理しなければならない情報が多かったり、全身の力を使いやすいため強引な成立がしやすい技でもある。というのも前後左右や全身の捻りといった割と強めの力であったり、体重差や速度で無理があっても崩せてしまう場合があるからなのだ。

 櫻井師範の側面を受ける限りでは、横に並んだか並ばないかのところで前後左右も捻りも一切感じずガクッと全身が下方向に沈み、上方向に「戻せない」状態とされてしまう感覚であった。その為櫻井師範がそこで止めてくれたとしても体勢を戻せず、そのまま地面に落とされてしまう。受けた感覚としてはやはり、接触した箇所から櫻井師範の技によって足場を破壊されている。力やスピードではなく、そこが急に失われたかのように不安定にさせられてしまうのは貴重な体験であった。

 最後の四カ条もまた、印象深い。今回やったのは相手の手首の脈部あたりを挟み込むようにして接触し、そのまま回転してうつ伏せに倒すという合気道S.A.の昇級や昇段でも出てくる見慣れた動きである。にもかかわらずほとんどの稽古者は合気道S.A.の四カ条を難しいと感じている。

 櫻井師範の動きだけを見てみると、相手の手首に手を添えてほんの少しの回転と共に袈裟斬りのように動かしただけなのに、相手がまるで凄い力で引っ張られたかのように前に引きずり出され、うつ伏せにくしゃっと潰されてしまっていた。動きだけを真似してみると、やはり相手を引っ張ってしまうため成立しない。この技もやはり、四カ条の形こそしているものの根幹となる部分は、相手の強い場所を破壊することで相手のバランスを崩す事であるという。

 

 今回の研究会で理解できたこととしては、相手のどこに接触したとしてもまずは相手の土台となる「立っている際に無意識化でバランスを取っている箇所」にアプローチを掛けられるだけの方法論の確立と、それをやる為に自分が崩れない地力の獲得の重要さである。その地力を得るために何をするのが良いかと櫻井師範に聞いてみた。帰ってきた答えは「基本動作で作っていくしかない」という明確なものであった。

 結局のところ、全ては基本動作に繋がっている。自分がどうやって立っていて、どうやってバランスを取っているかを深く理解できると、自ずと相手がどうやって立っていて、どうやってバランスを取っているのかが理解できる可能性が出てくる。それを理解して、毎回の稽古の基本動作を行うか行わないか。それが10年後20年後に技を持っている人間になれるかどうかの分水嶺となるのだろう。

<合気道S.A. 広報部>